久嶋さんは石川県小松市出身のプロドラマー。上京し、自身の所属するバンド「SOY SAUCE SONIX」でのデビューや、解散後も有名アーティスト達のレコーディング・ツアーでドラムを叩くなど、精力的に活動。
公式ブログを見ても分かる通り、舞台に立った数や関わった作品数などは相当なモノで、その腕前が伺いしれます。
なんと現在は小松市にUターンしてヴィーガンカフェを運営中。中ノ峠ミュージックラボ(音楽スタジオ)に併設されたカフェで、動物性食品を用いずにおいしく仕上げたメニューを提供しています。
僕が、某音楽専門学校の講師をしていた時、毎年入学してくる生徒たちに、まず最初の授業で行っていた事は次のような質問でした。
「皆さんはドラムという楽器が、どのような造りで成り立っているかを理解していますか?」
コレがなかなか、意外に基本的なドラムのしくみを知らないドラマー達が多い事に驚かされました。
それは無理もないのだけれど、なぜかと言うとドラムを始めた初心者の頃は、まだそこにあるドラムセット(リハスタなどのもの)を、置いてあるそのままの状態で使用するしか術がないからである。
そして、「先生、ドラムにもチューニングがあるのですか?」という生徒もチラホラ。。
そこで、チューニングより以前に「ドラムって、どういう造りになってるの?」について、一度考えてみる事を提案してみたいと思います。
僕がドラムを始めた頃はまだ今のようにネットもなく、情報を得る手段も少なかったので、友人が持っていたドラムセットをじっくり触らせて貰ったり、町の楽器屋さんの店主から情報を集めたり。
カタログの写真を見て、その製品に思いを寄せたり。
レコードを聴けば、ドラムの音の響き方が、何で自分と同じ音が出ないのだろう、、と、想像力を働かせてみたのでした。
ドラムのチューニングというのは難しい。それは正解がないからです。ライブではコンサート会場の条件によってもチューニングは様々だし、レコーディングに於いては、それと全く逆のアプローチをとったりもします。
もう一度言うと、正解は無いのです。
そのかわりに不正解もない。ピアノやギターのチューニングとは違って、ハッキリと割り当てられた音階が無いので、そのアーティストの持ってる感性が優先される場面も多々ある。
ただ、その場面に合った、音作りにおける「黄金比」というのは必ずあります。
今回は、そのチューニング以前に知っておきたい「ドラムという楽器の基本的な特性」についてお話ししたいと思います。
僕がまず、一番最初に授業で話してきたのは、以下の事です。
ここにクラッシュシンバルが2枚あります。大体よく使われるサイズのもの。各メーカーから発売されているものは大まかに言うと、
「ヘヴィ・クラッシュ」
「ミディアム・クラッシュ」
「ミディアム・シン・クラッシュ」
などなど。
シンバルの厚さは、ヘヴィは分厚く、ミディアムは中くらい、ミディアム・シンはさらに薄い。
例えば、口径は違うが同じ厚さのミディアムクラッシュが2枚(18インチと16インチ)あったとすると、どちらのシンバルの音がピッチ(音程)が高いですか?
これは理解している人が多かった。小さいシンバルの方がピッチ(音程)が高い。(見た目も小さいからそう思うのかもね)
では今度は、同じ口径(18インチ)のシンバルが2枚あり、一方が分厚いシンバル(ヘヴィ クラッシュ)もう一方が薄いシンバル(ミディアム クラッシュ)だったらどうだろうか。
分厚いシンバルの方がピッチが高い。音程が高いのだ。
シンバルをチューニングすることは出来ないが(出来なくもないが)じつはここに、ドラムのチューニングの基本が「すでに」ある。
楽器というのはあくまで物質(モノ)なので、その楽器の持つ「厚み」「口径」「付属するパーツの張り具合」「叩く箇所」によって、出る音はある程度は決まってくる。
あとはマインドの部分(奏法)でのコントロールが演奏を左右する。
ドラムのプレイはもちろんのこと、数々のアーティストのレコーディングで、ドラムテック(チューニングの仕事)をやった経験から言えるのですが、チューニングの前に、まず知っておきたいことは、プレイヤーが「その構造を知っておく」ということです。
現在は国内外、様々なメーカーからハイスペックなものが多数出ています。
木で出来ているもの以外ではファイバー製やアクリル製、ステンレス製などもありますが、ここでは木のもの(木胴)に絞ってお話しします。
みなさんは自分のドラムセットを、どのように音を出したいでしょうか。デカイ音?繊細な音?
これは抽象的な言い回しですね。基準が曖昧かも知れません。
では、硬い音?柔らかい音?
これもある意味、抽象的ではありますが、先程よりは少し伝わり易いのではないでしょうか。
硬い音は材質が硬ければ、柔らかい音は材質が柔らかければそのような音の傾向になります。前出のデカイ音、繊細な音というのはプレイヤーの技術や力量なのかも知れません。
今は主に硬いメイプル(カエデ)やバーチ(カバ材)が主流ですが、ビートルズが活躍した60〜70年代は、ドラムの材質としてはまだその需要がなく、コストもかかる為、ギターのネック等で使用されている柔らかい安価のマホガニー材が使われていました。(日本のメーカーにおいてはベニヤ材なんかも使用)
いやいや、それは昔の話。確かに70年代のウエストコーストサウンドにおけるドラムの音は暖かいものでした。
そのチューニングも低く、「ダン!」とか、「タシッ!」とか、スネアの音は今の音楽シーンとは異なる感じでした。
80年代になると、ドラムにも「フランジャー」や「ゲートリバーブ」等のエフェクターがかけられ、技術の進歩による「ドラムサウンドの進化」も進みました。
では何故、今日のドラムサウンドは木胴でも硬くてしっかりした音がするのでしょうか?言葉で言い表すのは難しいですが、「カンッ!」とか「コンッ!」という感じです。
それは、密度の高い硬い頑丈な木材が手に入り易くなった事に加え、PA技術の進歩により、あるいはギターアンプの出力が上がり、エフェクターが開発された為、ドラムに「音抜け感」が必要になってきた為です。
先ほど大ヒット映画となった「ボヘミアンラプソディー」ですが、そのクイーンのドラマー「ロジャーテイラー」を例に挙げると、そのサウンドは分かりやすいところで変革期があります。
ロジャーはラディック社製のドラムセットを長年愛用しているのですが、1980年発売の「ザ・ゲーム」から、急にドラムサウンドにキレが出て、音量というかドラムの存在感が以前よりも前に出て来ています。
このアルバムからセットを一新して、硬いメイプルのドラムセットを使っているようです。前作の「JAZZ」と聴きくらべれば一目瞭然です。
ドラムはもちろんプレイするのも楽しいですが、その歴史や成り立ちを知ることが自身のスタイル作りに役立つ事もあると思います。
もし、また機会があればドラムヘッドやチューニングについて、もう少しお話し出来たらと思います。
ドラム演奏動画はこちら!
上の動画を見ても分かる通り、さすがプロドラマーという腕前!なかなか文字で解説するのが難しいドラムの音とチューニングについて、詳しく説明してもらいました。
音楽学校での講師を勤めていた経験もあるためか、単に演奏が上手いだけではない、ドラムという楽器そのものについても非常に詳しいことが分かりますね。
どうぞみなさん、カフェの方も訪れてみてください!
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