【クラシックギター奏者の市川亮平が解説】スラーの基本と練習方法

プロのクラシックギタリストであり講師も勤める市川さんが、ギター演奏テクニックのひとつであるスラーについて解説。本記事を読み練習して、スラーマスターを目指しましょう!

記事の執筆者:市川亮平

東京音楽大学クラシックギター科卒業、現在はソロやアンサンブルでの演奏、クラシックギターレッスン講師として活動を行っている。

自身も師事した経験を持ち、その経験を活かした正統なレッスンが特徴。NHK文化センター千葉教室でのクラシックギター講師を務めたのがはじめてのレッスン指導だった。

公式サイトやブログでは、主にレッスン受講生やレッスン受講を検討している方々に役立つ情報を発信中。

はじめに

初めまして。
主にクラシックギター教室の講師として活動している市川亮平と申します。

今回はクラシックギターのテクニックとしての上行スラー、下降スラー、装飾音の説明や練習方法を記していき、最後にはスラーを使った簡単な曲をご紹介します。

日頃のレッスンでこの授業になると、説明を受けても最初は思った通りに実現できない方も多く、その理由は力みやフォームの問題、無意識に動かしてしまう指や左腕の動きにあります。

それらの悩みを解消するために、力を抜いて指をできるだけ自由に使ってスラーを行う、そのような事を日頃目指しております。

クラシックギターを始めてスラーってなんだろう?どういう練習をすれば良いんだろう?とスラーを学ぶちょうど入口に立った方にとって、この記事がお役に立てば幸いです。

1.スラーとは

1-1.表現としてのスラーとテクニックとしてのスラー

音楽全体の中でスラーとは、楽譜に書き込まれている演奏記号の一つです。
楽譜1の赤い「⌒」のように複数の音符と音符間を「⌒」で結ぶように記されます。


【楽譜1】


「赤い『⌒』で結ばれた最初の音から最後の音までを、滑らかにひとつのまとまりとして演奏しましょう」という意味です。

ご覧のように多くの音符間を比較的長い「⌒」で結ぶことが多いです。
これを上手く表現することはテクニックも非常に関わってきますが、説明の便宜上、これを「表現としてのスラー」と呼ぶことにします。

楽譜1には、2つの音符を結ぶ黒い「⌒」と、青い「⌒」も記されています。
青い「⌒」は「タイ」という2つの同じ高さの音符を「⌒」で結び、2つの音符の長さを足して一つの音符のように伸ばして弾く演奏記号です。

黒い「⌒」が今回テーマとなる、押弦に使う指で弦を叩いて音を出す、または同じく指で弦を引っ張り音を出す「クラシックギターのテクニックとしてのスラー」となります。

タイと異なるところは、2つの(装飾音の場合は複数の場合もある)異なる高さの音符を「⌒」で結び表される点です。

1-2.テクニックとしてのスラーの種類

テクニックとしてのスラーは上行スラーと下降スラーの2種類があります。
区別して呼ぶことはあまりなく、この2種類をまとめて単にスラーとして呼ぶことが多いです。

エレキギターの演奏経験のある方はご存じかもしれませんが、エレキギターの楽譜にはピッキングせずに弦を叩いて音を出すハンマリング・オンを表す記号「h」と、弦を押さえている指で弦を引っ張って音をだすプリング・オフを表す記号「p」という記号が記されています。(楽譜2参照)


【楽譜2】


このハンマリング・オンとプリング・オフが「クラシックギターのテクニックとしてのスラー」にあたります。

しかし、クラシックギターの楽譜にはこの「h」や「p」という記号は使われません。異なる高さの2つの音符が「⌒」で繋がれているだけです。

ではどうやって弦をたたく・引っ張るを判断するか。
「⌒」で繋がっている音の流れが上がっているか、下がっているかが判断材料になります。

【楽譜3】

楽譜3の上行スラーの音符を見て頂くと、スラーを示す「⌒」で繋がれた音の流れはド→レと上がっています。

ここから、弦を叩いて音を出すハンマリング・オンにあたる上行スラーと判断します。演奏するときは「⌒」の始点の音符はフィンガーピッキングし、終点にある音符は弦を叩いて鳴らします。

それ以外の2~4つ目の音の流れは全て1つ目の音から2つ目の音への流れが下がっています。
ここから、押さえている指で弦を引っ張って音を出す下降スラーと判断します。
下降スラー1、2は「⌒」の始点の音はフィンガーピッキングし、終点にある音は押さえている指で弦を引っ張って鳴らします。

下降スラー4の音の流れはミ♭→レ→ドと2段階に音が下がっています。
これはミ♭をフィンガーピッキングした後、押さえている4の指で弦を引っ張りレの音をだし、更にレを押さえている3の指で弦を引っ張りドを出すという、連続して下降スラーを行うことを表します。
下降スラー1は2つめの音が開放弦なので不要ですが、下降スラー2、3は予めスラーの終点の音を押さえる指も1つ目の音を弾く前に押さえている必要があります。


・音の流れが上がっていたら「⌒」の終点の音は「弦をたたいて鳴らす」
・音の流れが下がっていたら(⌒)の終点の音は「弦を引っ張って鳴らす」
このように覚えてください。

1-3.表現としてのスラーとテクニックとしてのスラーの関係

【楽譜4】

楽譜4の表現としてのスラーで結ばれたフレーズは、最初の音から最後の音までを、滑らかにひとつのまとまりとして演奏されることが望まれます。

では滑らかに一つのまとまりで弾くためにはどうしたら良いか。
一つには音の強弱変化を突然大きく変えない事が重要です。

楽譜4を3回繰り返し演奏した動画1をご用意しました。


・1回目: 全てピッキングして強弱の変化を突然大きく変える

・2回目: 全てピッキングして強弱の変化少しずつ変える

・3回目: テクニックとしてのスラーを交え強弱の変化を少しずつ変える


上記の通り3回とも弾き方を変えております。

生徒さんがスラーを学ぶとき、始めに似たようなことをすると皆さん2回目又は3回目が1番滑らかだったと仰います。
主観によるので異なる意見のある方も当然いらっしゃると思います。
皆さんは3回のうちどれが一番滑らかに繋がって聞こえたでしょうか。

2回目又は3回目という方が多いと思います。

レッスンをしていて感じるのは、全ての音をピッキングして弾くよりもテクニックとしてのスラーを交えて弾いたほうが滑らかに音をつなげて弾くのが容易だという事です。

なぜそうなるのか。
その理由は、ピッキングで強弱の差を徐々に付けていくのはそれぞれの指の力の差もあるので微調整が難しいのに対し、テクニックとしてのスラーは大きい音が出しにくいため、普通に使っても自然と強弱差が少なくなるからだと思います。

テクニックとしてのスラーは、表現としてのスラーを実現するうえで非常に有用と言えます。

2.スラーを使って音をだす練習

これから実際に「テクニックとしてのスラー(以下、スラー)」を使って音をだす練習をしてみましょう。

練習の順番としては1.フォームの確認、2.上行スラーと下降スラー、3.連続したスラー、4.押弦してのスラーとなります。

ここからはプリントアウトできるように各練習のPDFファイルもご用意致しました。

2-1.スラーのためのフォーム

このフォームを身につけられるかどうかで、楽にスラーができるかどうかが半分程決まります。
まずスラーを練習するときに重要な左手のフォームについて4点挙げます。

①左手の指はなるべく横に開かない。
②指の第1,2関節は力まず大きく曲げる。
③左肩から力を抜き、結果として左ひじは真下を向く。
④左手親指は中指の裏に配置。

なぜそれが重要か理由を書いていきます。

①の理由

指を横に開くとは写真1のような状態です。

【写真1】

フレットそばを押さえようとすると多くの方が、この指を横に開くような状態になります。皆様このように指を横に開き、指を曲げたり開いたりしてみてください。

力が入ってしまい、関節の開閉も難しいはずです。

特に下降のスラーは指の第1,2関節を曲げて行います。関節の名称については写真2をご覧ください。


【写真2】

スムーズに関節の開閉を行うには写真3のように1~4の指の力が抜け、少しだけ隙間が空いている事が望ましいです。

【写真3】

曲の中で指を拡げざるを得ない状況も当然出てきますが、まずは基本のスラーのフォームとしてお考え下さい。

②の理由

指を横に広げず力を抜くと、指を曲げて構えやすくなったと思います。

・1回目:1の指をあまり曲げずに構えての下降スラー

・2回目:1の指の第1,2関節を大きく曲げて構えての下降スラー

表のように弾いた動画2をご覧ください。

1回目は1の指をはじめ、左手や使用していない2~4の指までも動き、弦から指先が離れてしまいました。
この構えで下降スラーをすると第3関節も動きやすくなるためです。
第1,2関節を曲げるよりも第3関節を曲げたほうが他の指が勝手に動きやすいです。
訓練でなるべくそうならないようにはできますが、かなり根気がいります。

2回目は1の指はコンパクトに動き、左手も2~4の指もほぼ動かず全ての指先が弦から近い状態を保っています。
この状態ならどの指もすぐに正確に次の音を押さえられる可能性があがります。

もう一つ、③に関わってくるのですが、指を大きく曲げて押さえると上行スラーで弦を叩く時に左肩から先の重みを弦に乗せる事が可能になってきます。

③の理由

上行スラーは弦にある程度瞬間的に圧力をかける必要があります。
そのため第1から第3の関節の中で、最も力を与えられる第3関節を曲げて弦を叩く事になります。
しかし、②の理由で述べたように第3関節を曲げると他の指も力んでしまいフォームが崩れやすいという問題が出てきます。

そこで、叩く瞬間に補助として左肩の力を抜き、左手の重みを圧力の一部として加えることで第3関節をあまり曲げなくても弦に音が鳴るだけの圧力を与えられます。
第3関節のみを曲げ弦を叩くよりも力みが出ず、最小限の力で音を鳴らせることができます。

この左肩の脱力で弦に重みを乗せることは、最初から肩の力が抜けていて結果として肘が真下を向いていないと実現できません。
やって頂くとわかるのですが、肘が斜め横を向いていると肩の脱力で弦に重みを乗せることは可能ですが、二の腕の後ろ側「上腕3頭筋」に力が入ってしまうと思います。

動画3で左ひじの向きと1回目「第3関節のみの上行スラー」2回目「第3関節と左肩の脱力の上行スラー」を実演しております。

僅かですが指の動きがコンパクトになっていることを実際に確認してみてください。

かなり有用な技術ですが、瞬間的に左肩の脱力をし、重みを弦に乗せるのは訓練が必要です。
長期的な視野で練習してみてください。

④の理由

左手親指を中指の裏に配置すると左手の重心を1,4の指側どちらにも移動しやすく、③を実行するときに肩から先の重みをどの指にかける時にも有効になってきます。

長くなりましたが、以上がスラーをする前のフォームの重要事項とその理由になります。

2-2.上行スラーの練習

フォームについて確認できましたら、まずは弦を叩いて音を鳴らす上行スラーの練習をしてみましょう。
楽譜5は6弦開放から4フレットまで半音ずつ上がっていくシンプルな練習です。


【楽譜5】

動きはシンプルですが半音進行のため臨時記号の使用が多いです。
読みにくいと思った方はタブ譜をご覧ください。

ただ練習をするだけならこの練習はそこまで難しくないかと思います。

しかし、「2-1.スラーのためのフォーム」を頭に入れた上で、以下の点に気を付けて練習してみてください。
同じ練習時間でも技術の習得やのちの演奏に大きく差が出てきます。

上行スラー練習方法

①「⌒」の始点の音はフィンガーピッキング、終点の音は弦を叩いて音を出す。(写真4参照)

【写真4】


②「⌒」の始点の音が開放弦なら終点の音はフレットそばをたたく。
始点の音を押弦するならフレットのそばを押さえ、終点の音は指定のフレットとその手前のフレットの中央をたたく。

フォームができてくれば上行スラーはフレットのそばを叩かなくても音はきちんと出ます。(動画4参照)

【動画4】

※手が大きく、指を横に開かなくてもフレットのそばを叩ける方はそのままそばを叩いて構いません。


③指の第3関節を曲げ弦を叩き、その際必ず左肩の力を抜いて弦に左手の重みがかかるようにする。(2-1.スラーのフォーム動画3参照)


④大きな音を出そうと弦を強く叩かない。
フォームや練習方法がきちんと出来ていれば最悪音は出なくても良い。


⑤弦を叩いた後、その指を浮かせる時は指を弦から離そうと動かさず、必ず指の力を抜く。
動画5で1回目は指を意図的に弦から離すために動かし、2回目は脱力で指を浮かせています。
見比べてみてください。

【動画5】

⑥押弦しない指、スラーしない指は指先が常に弦を向いているように構え、指が伸びたり曲がったりしたら弦を押さえる指、スラーする指の力を抜く。


⑦メトロノームは♫で30、♩で60あたりに設定し1音なる度に一つ音を出す位の速さで練習する。
ゆっくりな練習な程スラーの音は出し難いが、大きい音を出そうと弦を強く叩かない。(動画6参照)


練習方法は以上になります。慣れてきたら1弦でも同様の練習をしてみてください。この時左手の角度・弦を押さえる指の角度は6弦とほぼ同じになる様ご注意下さい。

時間がある方は5弦、4弦と順番に下がっていくことが望ましいですが、時間のない方は6弦と1弦の2本の弦で大丈夫です。

理由はその2本の弦が最も左手のフォームや指の角度を同じにする事が難しいからです。


それでは、最後に上行スラーの練習動画をご覧ください。(動画6参照)

【動画6】

※動画は少し速く弾いています。もっと遅いほうが望ましいです。

2-3.下降スラーの練習方法

次に弦を押さえている指を引っ張って音を出す下降スラーの練習をしてみましょう。
この練習はご負担が無ければ上行スラーと並行して行ってください。

楽譜6-1は上行スラーと同じく6弦開放から4フレットまでを使ったシンプルな練習です。


【楽譜6-1】

こちらも練習方法に気を付けて弾いて頂ければ幸いです。

下降スラー練習方法①

上行スラーの練習楽譜と異なり、3連符で記され、スラーの終点の音が少し長く伸びています。
楽譜上にあるABCの各ポイントでそれぞれの動作を行って頂くと、最初はこの楽譜のようになることが多いためです。

A:弦を弾く
B:押さえている指の第1,2関節を曲げ弦を斜め下に引っ張る
C:曲げた指の力を抜き、指先を元の高さに戻す

とありますが、AとBはスラーの練習としては普通の事です。

Cが重要で、指を曲げたままだと力みが継続し、その指も他の指も動かしにくくなります。
また、スラーをした後すぐにその指で弦を押さえる時に指先が弦から離れているためミスタッチに繋がる可能性が高まります。

力を抜き指先が元の高さに戻るまで待つというのは辛抱のいることですが、必ずこれを行ってください。
戻るのに時間がかかる方は、音と音の間が楽譜より長くなっても構いません。
徐々に戻る時間が短くなってきますので辛抱強く練習してみてください。

瞬間的に脱力し指がさっと戻るようになったら、楽譜6−2のように通常の8分音符として練習します。

【楽譜6-2】

下降スラー練習方法②

「⌒」の終点の音が開放弦の音以外、「⌒」の始点の音を弾く前に終点の音も押さえる。
楽譜7では6弦2フレットのソ♭を弾く前に1フレットのファも1の指で押さえておく。

【楽譜7】

下降スラー練習方法③

「⌒」の始点の音を押さえる時は、指定のフレットとその手前のフレットの中央を押さえる。
この練習は音が割れても気にしない。
理由は「2-1.スラーのためのフォーム」で述べたように、フレットそばを押さえようとして指を横に開くと、指の関節を曲げにくくなり、この練習の目的でもある楽な関節の開閉が出来なくなるから。

※手が大きく、指を横に開かなくてもフレットのそばを押さえられる方はそのままそばを押さえて構いません。

下降スラー練習方法④

「⌒」の始点の音はフィンガーピッキング、終点の音は押さえていた指を曲げ、弦を斜め下に引っ張って音を出す。ただし大きく音を出す必要はない。

下降スラー練習方法⑤

下降スラーを行う時は指の第1、2関節(特に第2関節)を曲げることを意識する。

第3関節は極力動かさない。(関節の位置については2-1スラーのためのフォーム写真2参照)動画7で1回目第1~3関節全て曲げた時と2回目第1,2関節だけを曲げた時の動きをご確認ください。

2回目のほうがコンパクトな動きになっていると思います。


【動画7】

下降スラー練習方法⑥

押弦しない指、スラーしない指は指先が常に弦を向いているように構え、指が伸びたり曲がったりしたら弦を押さえる指、スラーする指の力を抜く。

練習方法は以上になります。
慣れてきたら1弦でも同様の練習をしてみてください。

それでは、最後に楽譜6の練習動画をご覧ください。
スラー後、徐々に瞬間的に脱力するようにしています。


【動画8:下降スラーの練習】

2‐4.連続したスラー

時に、スラーを連続して行う場面も出てきます。そういった場面でも対応できるように楽譜9を使って上行・下降スラーの混ざった練習も行ってみましょう。

連続したスラーの練習方法

楽譜にも書いておりますが、ABCDそれぞれの箇所で毎回1つの動作を行ってみてください。

A:弦を弾く
B:弦をたたく
C:押さえている指の第1,2関節を曲げ弦を引っ張る
D:曲げた指の力を抜き、指先をもとの高さに戻す

注意点は今までの練習と同じですが、下降スラーでもあったDの動きを忘れないようにしてください。
最も重要な動作となります。

こちらが連続したスラーの練習動画になります。

2-5.押弦してのスラー

曲の中でスラーが使われるとき、和音を押さえている状態でスラーを行う事も多いです。
そうした場合、手の自由度が狭まり、難しくなります。
ここではそれがどれくらい難しくなるのか体験し、そしてその中でも楽にスラーが可能になるよう楽譜10で練習してみましょう。


【楽譜10】

練習方法

6弦を押さえたまま、まずはスラーを使い、5弦を鳴らしていきます。
それができたら6弦を押さえ4弦をスラー、3弦をスラーと進めてみてください。
楽譜10は6弦を押さえ4弦をスラーの1小節目までとなっています。

注意点は基本的に今までと同じですが、押さえ方によって左手を捻ったりせず、全てのパターンで、できるだけ同じフォームを心がけてください。

【動画10:押弦してのスラー】

2-6.装飾音

クラシックギターの演奏では、装飾音にスラーが用いられることが多いです。
ここではよく使われる装飾音を紹介し、それをスラーを使って弾いて頂きたいと思います。
始めに、これから説明する各装飾音をまとめた楽譜のPDFを貼っておきます。

①短前打音

【楽譜11】

通常の大きさの音符(ド)の前に斜線の入った小さな音符(シ)があります。
この小さな音符を短前打音と呼びます。
弾き方はパターン1のように短前打音(シ)が拍の頭に来ることもあれば、パターン2のように被装飾音(ド)が拍の頭に来るように演奏されることもあります。

短前打音をごく短く鳴らした後、素早く次の音を鳴らします。
楽譜12の場合、2弦開放のシを弾いた後、素早く2弦1フレットを叩きドを鳴らします。
実際に弾いている所をご覧ください。

②複前打音

【楽譜12】

短前打音が複数になった装飾音です。
小さい16分音符が複前打音です。

短前打音と同じように複前打音の始めの音を拍の頭に弾くのか、被装飾音を拍の頭に弾くのかは演奏者に任せられます。

楽譜12は2弦1フレット「ド」を弾いた後、素早く3の指で2弦3フレット「レ」を叩き、更に3の指を曲げ弦を引っ張り2弦1フレット「ド」を鳴らします。

手を捻って音を出したりせず、動画12のように指の動きだけで音を鳴らす事を目指してみてください。

③低音付きの短前打音・複前打音

【楽譜13】

和音の1つの声部のみに前打音が付く場合、クラシックギターでは奏法上、前打音の最初の音と他の声部の音を同時に弾くことが多いです。(楽譜13参照)

実際に弾いているところを参考に、試してみて下さい。

④トリル

【楽譜14】

トリルは記された音符(楽譜14ではド)と2度上(レ)の音符を細かく交互に鳴らす装飾音です。
繰り返しの数は演奏者の自由で、曲調によって速さを変えたり、徐々に速度を速くしたり、音を大きくしたり表現は様々です。

時代によって開始音が変わったり、パターンが変わったりもします。
今回はスラーを使い、代表的な2つのパターンを表現してみましょう。
この練習も手を捻ったりせず、指の動きだけで音を出すことを心がけてください。

装飾音は他にも長前打音、モルデント、プラルトリラー等いくつもの種類がありますが、今回はスラーの記事のため、限定してご紹介しました。
ご興味がある方は、他にどんな種類があるのか調べてみてください。

3.スラーを使って曲を弾く

今までの練習で身につけたスラーを使い、曲を弾いてみましょう。

今回ご紹介したスラーや装飾音全てが使われている曲は長くなってしまったり、難しい曲となってしまうため、今回は練習用の曲をご用意しました。
8小節の短い拙曲ですが、今までの練習の成果をこの曲で試してみてください。
楽譜15:スラーエチュード

練習の注意点

右手の運指は参考までに記したので、変更しても問題ありません。

弾き慣れるまではスラーがあまり鳴らなくても気にせず、今まで学んだ注意点を思い出しながら練習してみてください。

参考までに演奏動画もご用意しておりますが、トリルの数や速さは動画に合わせず、弾きやすいように皆様でご設定ください。

4.おわりに

今回ご紹介したスラーはギターの演奏表現に欠かせないテクニックです。
その第一歩となれば幸いとこの記事を書かせて頂きました。
ピアノにバイエルやツェルニーのエチュード(練習曲)があるようにクラシックギターにはカルカッシ、ソル、アグアド、コスト、タレガといった有名作曲家達のエチュードがあります。

エチュードの多くは技巧修得のための練習曲で、上にあげた作曲家のエチュードの中にはスラーを身につける事を目的としたエチュードも沢山あります。

難易度は様々ですが、まずはカルカッシ25のエチュード(全音楽譜出版社)の4番や8番、9番あたりからスラーの練習の続きとして取り組んで頂くのが宜しいかもしれません。

また、難易度は高くなってしまいますが、有名なフェルナンド・ソルの「魔笛の主題による変奏曲」にはスラーを使うことで滑らかにまるで風が水面を走っている様な軽快な変奏が出てきたり、ミゲル・リョベートの「ソルの主題による変奏曲」にはスラーだけで弾くという驚く様な変奏が出てきます。
そういった曲を聞くだけでも、「スラーを使うことでこんな風に弾けるんだ」と練習の励みになると思います。

今回の記事をご覧下さった方が、スラーというテクニックを使い、少しでも演奏表現を広げクラシックギターを弾くことを楽しんで頂ければ幸いです。

ご覧くださりありがとうございました。

【音マグ編集部よりひとこと】

プロのクラシックギタリストであり、講師も勤める市川さんにスラーを解説していただきました。とても内容が濃ゆく、市川さんが生徒さんへのレッスンに注ぐ力量も本記事から伺えるはずです!

記事が長いと難しい技術なのかな、と思ってしまう方もいるかもしれませんがスラーはあくまで基本技術なので習得はそこまで難しくありません。本記事を参考に練習に取り組みましょう!

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